整骨院はブラックだ。柔道整復師を目指す学生も、すでに働いている方も、一度は耳にした言葉ではないでしょうか。実際、長時間の拘束、残業代の未払い、有給が取れないといった声は、業界の内側にいれば珍しくありません。
ただ、その話をどれだけ集めても、自分の職場が危ういのかどうかは判断できません。必要なのは、体験談ではなく線引きです。どこからが違法で、どこからが単なる相性の問題なのか。そして、その職場にいることで自分が何を失う可能性があるのか。
柔道整復師として現場に立ち、経営者として院を運営してきた立場から、できるだけ具体的にお伝えします。
まず整理しておきたいのは、ブラックという言葉が二つの異なる状態を指して使われている点です。
ひとつは、法律に触れている状態。残業代が支払われない、休憩が与えられない、有給休暇を取らせないといった行為は、労働基準法に反します。事実として黒か白かが決まる領域です。
もうひとつは、法律には触れていないものの、自分の価値観や目指すキャリアと噛み合わない状態です。院長の指導が体育会系で息苦しい、患者さんを流れ作業で回すやり方に納得できない、学びたい技術が学べない。どれもつらい状況ですが、違法ではありません。
では、なぜ区別する必要があるのでしょうか。対処法がまったく違うからです。前者は労働基準監督署への相談や証拠の確保という手段が使えます。後者は、環境を変えるしかない。混同したまま我慢を続けると、打てる手を打たないまま時間だけが過ぎていきます。
ここで多くの記事は「経営者の資質」で説明を終わらせます。もちろん人の問題もあるでしょう。ただ、同じ問題が業界全体で繰り返されているなら、そこには構造があると考えたほうが実態に近い。
保険診療、正確には療養費の受領委任を柱にする整骨院では、施術一回あたりの単価が制度で定められています。院がどれだけ丁寧に施術しても、患者さんがどれだけ満足しても、受け取れる金額は変わりません。
売上は、単価と来院数の掛け算です。単価を動かせないなら、増やせるのは来院数だけ。すると一人あたりの施術時間は短くなり、施術者は朝から晩まで動き続けることになります。長時間労働は、誰かの悪意ではなく、算数の帰結として生まれている面があります。
売上の伸びしろが限られた事業では、利益を残す方法も限られます。家賃も水道光熱費も削りにくいとすれば、調整弁になりやすいのは人件費でしょう。基本給を低く設定して歩合で補う、勉強会や朝礼を労働時間に含めない、店舗の清掃や掲示物づくりを業務外として扱う。そうした運用が、あちこちで起きています。
ここで重要なのは、構造の話をしているからといって、違法行為が正当化されるわけではないという点です。構造を知る意味は別のところにあります。同じ収益構造の職場へ移れば、同じ悩みを繰り返す可能性が高い。転職を考えるとき、この視点を持っているかどうかで結果が変わってきます。
感覚ではなく条文で判断できる部分は、意外と多く存在します。代表的なものを挙げます。
年次有給休暇については、2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち年5日を使用者が時季を指定して取得させることが義務づけられました。管理監督者も対象に含まれます。詳細は厚生労働省の年5日の年次有給休暇の確実な取得をご覧ください。「うちは有給がない」と説明されたなら、その時点で法令に照らして疑問符がつきます。
時間外労働の割増賃金にも明確な基準があります。1日8時間、1週40時間を超える労働には25パーセント以上の割増賃金が必要で、さらに月60時間を超える時間外労働については、2023年4月から中小企業も含めて50パーセント以上の割増賃金率が適用されています。根拠は厚生労働省が公開している月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げに関する資料です。
朝の準備や閉院後の勉強会も、使用者の指揮命令下にあれば労働時間として扱われるのが原則です。自主参加という名目でも、実質的に参加が強制されているなら話は変わります。
ここまでを整理します。長時間拘束されている、残業代が出ない、有給を取らせてもらえない。心当たりがあるなら、それは働き方の好みの問題ではありません。事実として法令に触れている可能性があります。
労働条件の話は、多くの記事が触れています。しかし、勤務する柔道整復師にとってより深刻でありながら、ほとんど語られない論点があります。療養費の請求です。
療養費の請求内容に不正または著しい不当が認められた場合、その柔道整復師は受領委任の取扱いを中止されます。中止となった日から原則として5年間、新たに受領委任を取り扱うことができません。そして措置の内容は、氏名や施術所名を含めて公表されます。各地方厚生局が実際に公表しており、関東信越厚生局や東北厚生局のページから誰でも閲覧できます。
公表事例には、実際には行っていない施術を行ったものとして請求していた事案や、施術していない日を通院したことにして施術録に記載していた事案が並びます。柔道整復師の資格を持たない者が行った施術を、柔道整復師の名義で請求していたケースも公表されています。
想像してみてください。院長から言われるまま施術録を書き、レセプトの数字を整える。おかしいと感じても、雇われている立場では口に出しにくい。数年後、監査が入り、処分と実名の公表を受けるのは誰か。院の看板ではなく、そこに名前を記した柔道整復師です。
ブラック整骨院を見抜くチェックリストは、世の中にいくつも出回っています。休日数、残業代、社会保険。どれも確かめる価値があります。ただ、もし質問をひとつしか許されないなら、私は請求の運用を聞きます。
保険が適用されるのは、急性または亜急性の外傷に起因する負傷です。慢性的な肩こりや腰の重だるさは、本来その範囲に含まれません。だとすれば、来院された方の症状をどう判断し、どの範囲を保険で扱い、どこからを自費で案内しているのか。院として基準を持っているのか。答えられる院と、言葉を濁す院では、入職後に自分が置かれる立場がまるで違ってきます。
研修や指導の中身も、同じ角度から確かめられます。技術の教育に時間を割いている院なのか、それとも請求の作法を覚えさせることに熱心な院なのか。教育の重心がどこにあるかは、質問を重ねれば見えてきます。
求人票は、書かれている内容よりも、書かれていない内容に情報があります。年間休日が「週休2日制」としか書かれていないなら、実日数を尋ねてください。完全週休2日制は毎週2日の休みを意味しますが、週休2日制は月に一度でも2日休みの週があれば成立します。同じ表記に見えて、年間では数十日の差が生まれます。
給与欄に「月給30万円以上」とあれば、その内訳を確認しましょう。基本給がいくらで、歩合がいくらか。固定残業代が含まれているなら、何時間分に相当するのか。歩合の比率が高い設計は、繁忙期には報われますが、体調を崩した月や来院数が落ち込む時期に収入が沈みます。安定を求めて移ったのに以前より不安定になるという逆転は、実際に起きています。
評価の基準が公開されているかどうかも、判断材料になります。何を頑張れば給与が上がるのかが明示されている職場は、評価に自信があるということでしょう。基準が院長の胸の内にしかない環境では、努力の方向すら定まりません。
可能であれば見学を申し込んでください。スタッフ同士の会話、患者さんへの言葉づかい、閉院間際の空気。求人票の何倍もの情報が、そこにあります。
すでに苦しい状況にいる方へ、順番をお伝えします。
最初にすべきは記録です。出勤と退勤の時刻、休憩の実態、指示された業務。スマートフォンのメモでも構いません。後から証拠を集めるのは、想像以上に困難です。
次に、雇用契約書と就業規則を確認します。渡されていないなら、それ自体が確認すべき点になります。
そのうえで、法令違反の疑いがあるなら、労働基準監督署へ相談する道があります。相談は無料で、匿名でも受け付けられます。ひとりで抱え込む必要はありません。
そして、辞めるかどうかを決める前に、ひとつだけ考えてほしいことがあります。あなたがつらいのは、その院の院長のせいでしょうか。それとも、単価を動かせず来院数で売上を作るしかない収益の構造のせいでしょうか。前者なら、同じ業態の別の院に移ることで解決するかもしれません。後者なら、業態そのものを変える選択肢が視野に入ります。
自費(自由診療)の整体では、価格を自分たちで設計します。単価が制度に縛られないため、来院数を追いかけずに事業を成り立たせる設計が可能になります。療養費の請求を行わないので、レセプトの作成も、請求の適否に悩む場面もありません。
良いことばかりではありません。保険という強力な入口を使えないぶん、技術と、その価値を言葉で伝える力が問われます。腕が価格に見合わなければ、患者さんは次に来てくださらない。厳しい世界です。ただ、その厳しさは自分の努力で乗り越えられる種類のものだと考えています。
私たちCUREPRO(株式会社May-Plus)は、東京、埼玉、千葉で10院を展開する整体院です。完全自費で運営しており、保険請求は行っていません。療養費の請求に伴う不正のリスクとは、構造的に無縁の設計です。スタッフの平均給与は42.7万円で、年間休日は選択制。慢性的な痛みから難治性の症状、スポーツ障害まで、力に頼らない施術技術を学べる環境を整えてきました。外傷への対応は有資格者による判断が前提となるため、当院では扱っていません。
働き方や研修の内容は、教育研修制度、福利厚生、募集要項のページですべて公開しています。判断材料を隠さないことが、私たちなりの誠実さの示し方です。
ブラックかどうかを判断するのは、最終的にはあなた自身です。ただ、判断するための材料は、外から集めるしかありません。求人票の文字だけでなく、その職場がどうやって売上を立て、何を評価し、どんな技術を教えているのか。そこまで開示している職場を選べば、少なくとも知らなかったという後悔は避けられます。
いまの職場を続けるべきか、環境を変えるべきか。まだ答えが出ていない段階でも構いません。柔道整復師として現場に立ってきた立場から、話を聞かせていただきます。面接の一次には、代表の阿部が直接同席します。選ばれる理由もあわせてご覧いただいたうえで、エントリーフォームからご連絡ください。
すべての整骨院が該当するわけではありません。ただ、単価が制度で決まる保険中心の収益構造では、来院数を増やす方向に圧力がかかり、労働時間が伸びやすい傾向があります。院ごとの姿勢に加えて、収益の構造まで見て判断してください。
1日8時間、1週40時間を超える労働には25パーセント以上の割増賃金が必要です。月60時間を超える時間外労働には、2023年4月から中小企業も50パーセント以上の割増賃金率が適用されています。支払われていないなら、法令に触れている可能性があります。
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には、年5日を取得させることが2019年4月から使用者に義務づけられています。パートタイム労働者も、付与日数が10日以上であれば対象に含まれます。
療養費の請求に不正または著しい不当が認められた場合、受領委任の取扱いを中止されるのは施術を行った柔道整復師本人であり、原則として5年間は新たに取り扱えません。措置の内容は氏名を含めて公表されます。疑問を感じたら、その場で確認してください。
勤務時間と業務内容の記録を残し、雇用契約書と就業規則を確認してください。法令違反の疑いがあれば、労働基準監督署に無料で相談できます。そのうえで、つらさの原因が院にあるのか収益の構造にあるのかを見極めると、次の一手を選びやすくなります。
厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得」
厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げ」
厚生労働省 関東信越厚生局「不正請求等が行われた場合の取扱いについて」
厚生労働省 東北厚生局「不正請求等が行われた場合の取扱いについて」
法令や制度は改正されることがあります。最新の内容は各出典をご確認ください。労働条件の判断に迷う場合は、労働基準監督署などの公的窓口にご相談ください。
職場選びをさらに深く考えたい方は、自費整体という働き方や柔道整復師の給料の考え方もあわせてご覧ください。求人の探し方については、柔道整復師の求人で整理しています。