自費治療院への転職を考えはじめると、求人情報にはよく似た言葉が並びます。完全自費、担当制、予約制、じっくり向き合える。どれも魅力的に響きますが、その言葉だけで職場の中身を測ることはできません。
そもそも、なぜいま自費なのでしょうか。理念や技術の話をする前に、確かめておきたい数字があります。転職の判断は、そこから組み立てたほうが確かです。
柔道整復師として現場に立ち、完全自費の院を運営してきた立場から、公的なデータと現場の実感を交えてお伝えします。
治療家の転職市場で自費という言葉を見かける機会は、明らかに増えました。理由を精神論で語ることもできますが、数字を見たほうが早いでしょう。
厚生労働省が柔道整復療養費検討専門委員会に提出した資料によれば、国民医療費は平成26年度の408,071億円から令和4年度の466,967億円へ増加しました。同じ期間、柔道整復療養費は3,825億円から2,747億円へ減少しています。率にしておよそ28%の縮小です。
一方、はり・きゅうに係る療養費は380億円から447億円へ、マッサージは670億円から663億円へと推移しました。減少が際立っているのは柔道整復だけだと読み取れます。出典は厚生労働省の柔道整復療養費の令和8年度改定の基本的な考え方(案)です。
同じ資料に、施術所数の推移も示されています。柔道整復の施術所は45,572か所から50,924か所へ増え、直近の伸び率は0.0%で、実質的に頭打ちの状態です。
ここで起きていることを一文で言えば、縮んだパイを、増えた院で分け合っているということになります。個々の院がどれだけ努力しても、保険収入という土俵の広さは制度が決めます。自費への移行は、理想を追った結果というより、算数の帰結として広がった面があるのではないでしょうか。
転職で失うものと得るものを考えるとき、収入だけを見ると判断を誤ります。数年後に自分の手に何が残るのか。そこに直結するのが、日々どんな患者さんと向き合うかです。
先ほどの資料には、柔道整復療養費の傷病名の99%以上が捻挫および打撲(挫傷を含む)であると明記されています。骨折や脱臼の応急処置は柔道整復師の本領ですが、日々の請求の中身はほとんどが捻挫と打撲だという事実は、意外に知られていません。
慢性的な肩の張りや腰の重だるさは、保険の対象ではありません。だとすれば、保険中心の院に長く勤めても、慢性症状に対する評価と施術の経験は、意識して積まなければ蓄積しにくいということになります。
同資料では、柔道整復療養費の受療者の年齢分布は70歳から79歳の割合が最も高いと報告されています。高齢の方を支える仕事に大きな価値があることは言うまでもありません。ただ、自費の治療院に来られるのは、仕事や育児に追われる現役世代が中心になりがちです。
患者層が変われば、求められる説明の仕方も、生活背景の聞き取り方も変わります。転職とは、技術を持ち運ぶことであると同時に、向き合う相手を選び直すことでもあります。
ここが、自費治療院への転職を考えるうえで最も大切な論点だと考えています。
保険診療では、施術一回あたりの料金が制度で定められています。どれだけ丁寧に問診し、どれだけ的確に施術しても、受け取れる金額は同じです。前掲の厚生労働省資料によれば、令和6年の改定で初検料は1,520円から1,550円へ、電療料は1回30円から33円へ引き上げられました。改定率は0.52%です。
30円と3円。数字が小さいと言いたいのではありません。単価が自分たちの努力の外側で決まる、という構造を示しています。売上は単価と来院数の掛け算です。単価が動かないなら、増やせるのは来院数だけ。長時間労働や回転数の圧力は、そこから生まれます。
自費では、価格を自分たちで設計します。技術と、その価値を言葉にする力が、そのまま単価に反映される。裏を返せば、腕が価格に見合わなければ患者さんは次に来られません。厳しい世界ですが、その厳しさは自分の努力で越えられる種類のものです。
ここまでを整理します。保険モデルでは、収入の伸びしろを制度が握っている。自費モデルでは、伸びしろを自分が握る代わりに、結果の責任も自分に返ってきます。どちらが優れているかではなく、どちらの構造で働きたいかという問いです。
ここからは、求人票を読むときの実務的な話をします。完全自費と書かれた募集を見て、同じものだと思ってはいけません。現場を見てきた実感では、大きく三つのタイプに分かれます。
ひとつめは、施術の技術そのもので単価を作っている院です。一人あたりの時間を確保し、評価と説明に手間をかけます。学べる技術の幅は広くなりやすい反面、求められる水準も高くなります。
ふたつめは、回数券や物販の販売比率が売上の柱になっている院です。自費であることに変わりはありませんが、施術者に求められる能力の重心が販売側へ移ります。悪いことだとは思いません。ただ、技術を磨きたくて転職したのに、月末の販売目標に追われるという食い違いは起こりえます。
みっつめは、保険を扱いながら自費のメニューを併設している院です。求人票に自費という言葉があっても、実務の大半がレセプト業務と保険施術というケースもあります。
では、どう見分けるのでしょうか。求人票の文面からは、まず判別できません。判別できるのは、売上の構成を尋ねたときの答え方です。
自費の院は歩合の比率が高い傾向にあります。歩合そのものが問題なのではなく、比率と算定の対象を確認してください。
基本給がいくらで、歩合がいくらか。歩合は施術の売上に対して発生するのか、それとも回数券や商品の販売額を含むのか。含むのであれば、収入を伸ばす最短経路は販売になります。自分の目指す治療家像と重なるかどうか、静かに考えてみてください。
もうひとつ、固定残業代の有無と、それが何時間分に相当するのかも確かめておきたいところです。求人票の月給が同じでも、内訳が違えば実質の時給はまったく異なります。
チェックリストを長くしても、判断は良くなりません。核心を突く問いを、数を絞って持っていくほうが有効です。
ひとつめは、売上の構成についてです。施術料と、回数券や物販の比率はどれくらいか。数字で答えられる院は、経営を開示する姿勢があるということでしょう。
ふたつめは、研修の扱いです。研修は業務時間内に行われるのか、費用は誰が負担するのか。就業後に無給で技術練習を求められる職場も、業界には存在します。制度として明文化されているかどうかを確かめてください。
みっつめは、評価の基準です。何を達成すれば給与が上がるのか、その基準は全員に公開されているのか。基準が院長の胸の内にしかない環境では、努力の方向が定まりません。
答えを濁されたなら、それも情報です。入職後に自分が置かれる立場を、面接の30分が教えてくれます。
いつ動くべきかという相談も、よく受けます。求人の動きは新年度前に活発になる傾向がありますが、良い職場は通年で人を探しています。時期を待つより、在職中に情報を集めながら進めるほうが現実的でしょう。次が決まってから退職を伝えるという順序は、守ったほうが安全です。
将来の独立を考えている方には、確かめておきたい点がひとつあります。保険を扱う施術所を開くのか、自費の院として独立するのか。前者を選ぶなら、療養費を扱うための要件や実務経験の扱いを、早い段階で調べておいてください。後者を選ぶなら、価格を設計し、価値を説明し、リピートを生む一連の経験こそが資産になります。どちらを目指すかによって、いま選ぶべき職場は変わります。
ここで正直にお伝えします。私たちは完全自費で運営しているため、保険を扱う開業を志す方にとって、当院での経験がそのまま制度上の要件を満たすとは限りません。隠しても、いずれ分かることです。自費で独立したいと考える方には、価格設計から患者さんとの関係づくりまで、実務のすべてを学べる環境だと考えています。
CUREPRO(株式会社May-Plus)は、東京、埼玉、千葉で10院を展開する整体院です。完全自費で運営しており、保険請求は行っていません。療養費の制度改定に売上が左右されない設計を、開院当初から選んできました。
スタッフの平均給与は42.7万円で、年間休日は選択制です。慢性的な痛みから難治性の症状、スポーツ障害まで、力に頼らない施術技術を学べる環境を整えてきました。外傷への対応は有資格者による判断が前提となるため、当院では扱っていません。柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師をはじめ、資格を活かして働きたい治療家を迎えています。
先ほど、面接で三つの問いを持っていってほしいとお伝えしました。私たちに対しても、遠慮なく尋ねてください。研修の中身は教育研修制度に、勤務条件は募集要項と福利厚生のページに記しています。情報を先に開示しておくことが、面接の時間を意味のあるものにすると考えています。
自費治療院への転職は、働く場所を変えるだけの話ではありません。単価を誰が決める世界で生きるのか、どんな患者さんと向き合うのか、数年後に何を手にしているのか。選び直しているのは、治療家としての立ち位置そのものです。
いま在籍している院を続けるべきか、環境を変えるべきか。答えが出ていない段階でも構いません。柔道整復師として現場に立ってきた立場から、あなたの状況を一緒に整理させていただきます。面接の一次には、代表の阿部が同席します。
私たちがどんな考えで院を運営しているかは、選ばれる理由のページにまとめました。話を聞いてみたいと思われたら、エントリーフォームからご連絡ください。
院の給与設計によります。自費は単価を自分たちで決められるため収入の伸びしろは大きくなりますが、歩合の比率が高い設計では来院数や販売額に収入が連動します。基本給と歩合の内訳、歩合の算定対象を必ず確認してください。
活きます。ただし、保険の傷病名は99%以上が捻挫と打撲であり、慢性症状への評価や説明の経験は意識して積む必要があります。研修体制が整った院を選べば、移行の負担は小さくなるでしょう。
できます。はり・きゅうやマッサージの療養費は柔道整復と比べて規模が小さく、もともと自費が主な土俵です。資格を活かして自費の現場で働く選択は、自然な流れといえます。
異なります。施術の技術で単価を作る院、回数券や物販が売上の柱になっている院、保険と自費を併用している院があります。求人票では判別できないため、売上の構成を面接で尋ねてください。
院の教育体制によります。研修が業務時間内に行われるか、費用は会社負担か、独り立ちまでの流れが具体的かを確認しましょう。制度として明文化されているかどうかが、判断の目安になります。
厚生労働省「柔道整復療養費の令和8年度改定の基本的な考え方(案)」(療養費の推移、施術所数の推移、傷病名別の患者割合、受療者の年齢分布、料金改定の内容)
厚生労働省「療養費について(被保険者のみなさまへ)」
数値は公表時点のものです。制度や料金は改定されることがあるため、最新の内容は各出典をご確認ください。
働き方の選択肢をさらに知りたい方は、自費整体という働き方や柔道整復師の給料の考え方もあわせてご覧ください。求人の探し方については、柔道整復師の求人で整理しています。