柔道整復師の就職先を調べると、整骨院、病院、介護施設、スポーツ現場と、たくさんの選択肢が並んだ記事が出てきます。読み終えたとき、選択肢の広さはわかったのに、では自分はどこを選べばいいのかという肝心の問いには、答えが返ってこない。そんな読後感を持った方も多いのではないでしょうか。
就職先を選ぶという行為は、実のところ「職場の種類を選ぶこと」ではありません。その職場で3年、5年と働いたときに、自分に何が積み上がるのかを選ぶことです。同じ整骨院でも、積み上がるものは院によってまったく違います。逆に、種類の異なる職場でも、身につく力が近いこともあります。
この記事では、まず柔道整復師を取り巻く就職環境の実態を押さえたうえで、就職先を見極める2つの軸を示します。そのうえで、主な就職先をその軸で並べ直していきます。定番の一覧よりも、少し遠回りに見えるかもしれません。けれど、この順番で考えたほうが、後悔のない一件にたどり着けます。
選び方の話に入る前に、前提となる数字を共有します。厚生労働省の令和6年衛生行政報告例によると、就業している柔道整復師は78,666人、柔道整復の施術所は50,924か所あります。施術所の数は前回調査からほぼ横ばいで、増加が止まりつつある局面に入りました。(出典:厚生労働省 令和6年衛生行政報告例)
50,924か所という施術所の数は、全国のコンビニエンスストアの店舗数に迫る規模です。かつては「柔整師が足りない」と言われた時代もありましたが、現在は施術所あたりの柔整師数がむしろ増える傾向にあります。就職先の数だけを見れば選び放題に見えても、実態は供給が積み上がった市場だということです。
この飽和が意味するのは、「どこでも働ける」時代から「どこで働くかで差がつく」時代への移行です。就職先が横並びで足りていた頃なら、どこに入っても大きくは変わりませんでした。けれど供給が満ちた今は、最初にどの環境を選ぶかが、数年後の技術と収入の差になって表れます。だからこそ、選ぶ目が要ります。
柔道整復師 就職先と検索して上位に並ぶ記事の多くは、整骨院、病院、介護、スポーツといった職場を10前後に分けて紹介する形式です。それぞれの仕事内容や給与が書かれていて、情報としては役に立ちます。ただ、この形式には一つ弱点があります。職場のラベルと、そこで実際に積み上がるものが、必ずしも一致しないという点です。
たとえば「整骨院」という一つのラベルの中に、健康保険を主に扱う院と、自費の施術を中心にする院が混在しています。この二つは、日々の仕事も、身につく技術も、給与の伸び方も別物です。同じ看板を掲げていても、中で起きていることは違います。
逆の例もあります。介護施設の機能訓練指導員と、デイサービスでの勤務は、職場としては別のラベルで語られますが、柔道整復師としての実務経験の扱いという点では同じ位置づけになります。つまり、種類で分けるだけでは、本当に比べたい部分が見えてこないのです。では、何で比べればよいのでしょうか。答えは、次の2つの軸に集約されます。
職場の種類より先に決めるべきなのは、次の2つです。この2つを自分の中ではっきりさせておくと、あとは選択肢を当てはめていくだけで、候補が絞り込まれていきます。
一つ目の軸は、その職場が健康保険を中心に回っているか、自費を中心にしているかです。この違いは、収入の天井と、身につく技術の種類を左右します。
保険中心の現場は、限られた時間で多くの患者さんを施術する場面が多く、症例の数をこなせます。一方で、施術できる内容は保険が認める範囲に沿う場面が多くなります。自費中心の現場は、一人の患者さんにじっくり向き合い、慢性の痛みや難しい症状にも対応する技術を磨けます。単価も上がりやすく、収入の天井は高くなりやすい反面、そのぶん技術を求められます。柔道整復師の給与水準を全国で見ると、新卒の初任給は月給でおよそ23万円台が目安ですが(出典:厚生労働省 令和7年賃金構造基本統計調査)、この数字が働き方によってどう変わるのかは、保険か自費かの選択と密接に結びついています。給与の内訳については柔道整復師の給料を整理した記事もあわせてご覧ください。
二つ目の軸は、そこでの勤務が、将来独立するための実務経験として積み上がるかどうかです。柔道整復師は開業権を持つ数少ない国家資格ですが、健康保険を扱う整骨院を開くには、資格とは別の要件を満たす必要があります。
健康保険の受領委任を扱う施術管理者になるには、令和6年4月以降、3年間の実務経験と施術管理者研修の修了が求められます。この実務経験は、受領委任を登録した施術所での勤務が基本で、少なくとも1年は施術所での経験が必要です。整形外科などの保険医療機関での勤務も認められますが、こちらは最長で2年まで。そして、デイサービスや介護施設で機能訓練指導員として働いた期間は、この実務経験には含まれません。(出典:厚生労働省 施術管理者の要件について)
ここが見落とされがちな部分です。将来いつか自分の整骨院を、という思いがあるなら、最初の数年をどこで過ごすかが、独立できる時期そのものを決めます。目先の条件で選んだ職場が、実は独立要件には一日も積み上がっていなかった、ということが起こり得ます。
2つの軸が定まったところで、定番の就職先を並べ直してみます。まずは全体像を一覧で示し、そのあとで一つずつ補足していきます。
| 就職先 | 保険・自費の傾向 | 施術管理者の実務経験 | 主に積み上がるもの |
|---|---|---|---|
| 整骨院・接骨院 | 院により保険中心〜自費中心 | 受領委任の登録院ならカウント | 症例数・実務経験・手技 |
| 整形外科・病院 | 保険(医療機関) | 最大2年までカウント | 医療連携・リハビリの知識 |
| 介護・機能訓練指導員 | 介護保険(柔整の施術ではない) | カウント外 | 高齢者対応・安定した働き方 |
| スポーツ・フィットネス | 自費・業務委託が多い | 原則カウント外 | 現場対応・コンディショニング |
| リラク・美容・一般企業・教員 | 資格が必須でない領域 | カウント外 | 各領域の専門性・柔整の周辺知識 |
| 独立開業 | 自身の方針次第 | 要件を満たしてから | 経営・すべての最終責任 |
柔道整復師の就職先として最も多いのが整骨院・接骨院です。ここでの経験は、受領委任を登録している院であれば施術管理者の実務経験に積み上がり、症例数もこなせます。ただし前述のとおり、保険中心か自費中心かで中身は大きく変わります。求人票の給与だけでなく、その院がどちらの方針で運営されているかを確かめることが、この職場を選ぶうえでの分かれ道になります。
整形外科や病院では、医師や理学療法士と連携しながら、画像所見やリハビリの知識に触れられます。医療の現場に身を置ける点は大きな魅力です。一方で、施術管理者の実務経験としては最大2年までしかカウントされないため、独立を視野に入れるなら、残りの1年以上を施術所で積む計画が必要になります。整形外科の求人を検討する際は、この上限を頭に入れておいてください。
高齢化を背景に、介護分野での柔道整復師の需要は伸びています。機能訓練指導員として働く場合、平均給与は柔道整復師全体の平均を上回るという調査もあり、待遇の面では魅力があります(出典:厚生労働省 令和4年度介護従事者処遇状況等調査)。安定した働き方を求める人には有力な選択肢です。ただし、この期間は施術管理者の実務経験には含まれません。介護の道を選ぶこと自体は確かな選択ですが、将来的な独立の可能性を残したいなら、その前後で施術所の経験を計画に入れておくとよいでしょう。詳しくは機能訓練指導員の解説もご覧ください。
スポーツトレーナーやフィットネスの現場は、アスリートや利用者の身体づくりに直接関われる、やりがいの大きい領域です。ただし雇用の形は業務委託が多く、収入が不安定になりやすい面もあります。また、これらの現場での経験は、柔道整復師の資格を前提としない業務も多いため、施術管理者の実務経験としては原則積み上がりません。資格を軸に据えるのか、現場経験を軸にするのか、自分の優先順位を先に決めておくことが大切です。
リラクゼーションや美容サロン、一般企業の健康管理部門、養成校の教員なども、柔道整復師の活躍の場として挙げられます。これらは資格が必須ではない領域で、柔整師としての知識を周辺で活かす働き方になります。安定性や働き方の自由度は魅力ですが、施術管理者への道からは離れる選択です。柔道整復師という資格を今後どう位置づけたいかによって、評価が分かれます。
独立開業は就職先の一覧に並べられることが多いのですが、正確には最初に選ぶ就職先ではなく、実務経験と技術を積んだ先にあるゴールです。保険を扱う整骨院を開くなら3年の実務経験と研修が要件となり、完全自費の施術所として開くなら受領委任の要件は不要になります。どちらの独立を目指すかによって、逆算して選ぶべき最初の就職先が変わってきます。柔道整復師としての先の展望は、将来性を整理した記事もあわせて参考にしてください。
ここまでは就職先を初めて選ぶ場面を中心に述べてきましたが、キャリアの途中で選び直す人も少なくありません。むしろ、一度現場を経験したうえでの選び直しのほうが、軸ははっきりしているはずです。
転職で確かめたいのは、これまでに積み上げたものが次の職場に持ち越せるかどうかです。施術所で積んだ実務経験は、別の登録施術所へ移っても通算できます。複数の院での勤務期間を合算して3年を満たすこともできます。一方で、介護やスポーツの現場で過ごした期間は、施術管理者の実務経験としてはリセットされます。何を持ち越し、何を新たに積み直すのか。この整理ができていると、柔道整復師の転職で軸がぶれません。
そして、初めての就職であっても転職であっても、判断の土台は同じです。職場の種類やその場の条件ではなく、2つの軸で「何が積み上がるか」を見る。この視点さえ持っていれば、求人の探し方そのものが変わってきます。
就職先を求人票だけで比べようとすると、どうしても給与や休日の数字の勝負になってしまいます。けれど、本当に効いてくるのは、その職場で3年後にどんな柔道整復師になれるのかという見立てです。これは、実際に人を育ててきた立場からしか語れない部分でもあります。
私たちmayplus-recruitは、東京・埼玉・千葉で自費の施術所を展開するCUREPROの採用窓口として、就職や転職の相談を受けています。新卒の初任給が全国で23万円前後という現状のなかで、当社の平均給与は42.7万円です。これは自費で技術に対価をいただく仕組みだからこそ生まれる数字であり、裏返せば、それだけの技術を身につける前提の環境だということでもあります。どの軸を優先するとしても、保険と自費でその後がどう変わるのか、実務経験がどう積み上がるのかまで含めて、正直にお話しします。就職先選びに迷ったら、応募の前でも構いませんので一度ご相談ください。まずは新卒の就職先選びの考え方から読み進めていただくのもよいと思います。
監修
阿部 純治(柔道整復師)
株式会社May-Plus 代表取締役。柔道整復師として臨床に携わったのち、東京・埼玉・千葉で自費の構造改善専門院CUREPROを展開。慢性痛から難治症状まで対応できる技術者の育成に取り組む。